もう 俺は自由なんだ
ペルソナの手から開放され
愛しい彼女の傍に居れて
笑って 笑って
楽しんで 充実した毎日を送っていた
愛しい彼女が 離れていくことも知らずに…
「うち、ペルソナに一生使えることにした。
だから、別れよう…?」
そう、愛しい彼女から告げられたのは、高等部1年の秋だった―
「蜜柑…、嘘だろ?」
そんなの、信じられない。
すぐ近くで見てきた彼女が。
別れようと、告げた。
しかも、彼女が一番嫌っていた、あのペルソナのために。
「ペルソナが、昨日、自分の過去のことを話してくれたんよ。
…この学園に入って、ずっと、避けられてて。
一人やってんよ。
その寂しさや悲しみは、うちにも、棗に
もわからへん。
やけど、その悲しみを分け合うことくらいはできる。
だから、傍に居てあげたい。
棗はペルソナの手から開放されてから、たくさんの人と接することができとる。
いつも、笑ってる。
やから、うちやペルソナのこと、忘れてしまい?
そっちのが、絶対、絶対幸せやから。
うちは、昔の葵ちゃんと同じように、
花姫殿の地下で、ペルソナの、先生の傍に、いる」
そんなこと、させない。
いつも笑ってたのは、愛しい君がいたから。
ペルソナは、その対価となるくらい、ひどいことをしてる。
葵と同じような目には…あわせない――――!
「みかん」
「何?それからな、うちのことは、忘れてって言っ「忘れられるわけないだろ!」
そう言った声は、普段怒ったときよりも低く。
顔は、もう、涙目になってて。
「棗…なんで泣いてるん?」
「お前がいなかったら…俺は…」
その声は、
怒りと悲しみが、込められているようで。
でも、怯えているような。
「俺が、笑っていられるのも、お前がいたから…
お前が苦しんでるのを見るたびに、どれだけ怖くなったか…」
瞳からは涙が零れた。
光に照らされ、ポタリと地面に落ちる。
「だけど…それでも…笑って…いたりできるのは…。
お前がっ…お前が…」
もう、彼の紅い瞳からはたくさんの涙が流れていた。
止まることなく。
「……お前が、この学園に来るまで、もうダメだって、思う時が…何度もあったけど…お前に会ってから…お前が、笑顔を見せてくれるたびに…まだやっていけるって、そう思った。
だから、一生傍にいてほしいんだ…もっと、俺を支えて欲しい…」
彼女は、俯いて
「ごめんなさい」
と、呟いた。
その声は、泣いたような声で。
「うちは…ほんとは…」
彼女は、顔を上げ、彼の紅い瞳を見つめた。
お互いの瞳には、お互いの涙が
写っていた。
「…もっと…棗とっ…一緒に…いたいっ…!
ペルソナの傍になんか、一生居たくない…!
棗に…もっと愛されたい…
一生…傍にいてください…」
彼は、彼女を抱きしめた。
やさしく、包み込むように。
でも、固く、逃がさないように。
「なつめっ…」
「蜜柑…」
二人は見つめ合い、キスを交わした。
それは、優しく、でも永遠を誓うような。
彼は、彼女の手をとって歩き出した。
「…うちな、もうこの学園に、居たくない」
「俺も…」
「じゃぁ―」
次の日の朝、彼女の部屋に行った彼女の友人は、家具だけが残った彼女の部屋を見て、唖然とした。
「蜜柑…やっぱり…」
状況をすでにわかりきって、結末がどうなっていたかわかっていたかのように、なぜか微笑んだ。
彼の部屋では、彼の友人が、同じようなことをしていた。
そして、彼の机の上には
「
今まで、ありがとう」
彼女の机の上には
「みんな、大好き」
と書かれたメモが残っていた。
どんなに汚れていても、どんなに汚れた手でも。
愛する人が居てくれるのなら、私も傍にいたい。
そうすれば、いつか幸せな未来がやってくるから。
神様が、見守ってくれてるから。
汚れた手(でも、いつかは幸せに)
*前サイトでの展示作品。