「もう、死んでもいいよな─」

そう、自室で棗は呟いた。


蜜柑の死から5ヶ月。

愛しい彼女をなくした棗は精神的に崩れかけていた。

ペルソナたちに散々苦しめられてきたけれど、こればかりはもう許せなかった。

自分が傷ついても、大切な人を巻き込みたくない。

もっと未来がある人には生きて欲しい。

愛しい彼女には未来があった。

何より、巻き込みたくなかったし、死なせたくなかった。

もう太陽の笑顔、天使の微笑みはどこにも無い。

いくら探したって、見つからない。

だから、会いに行く。

他人にじゃまされない愛を、 新しく向こうの世界で蜜柑と築きあげる…。

 





死んでしまおうと、自室の窓に足をかけたとたんに、上から紙が舞い降りてきた。


ピンクの便せんに、可愛らしい字で、

 

『今日の午後六時に北の森に来て下さい。あの大きな木の下で会いましょう』

 

と、書かれていた。

***


棗が北の森にいくと、白いワンピースに身を包まれた少女がいた。

「本当に来てくれたんやね」

栗色の髪、長い手足に、懐かしい関西弁。< /p>

蜜柑のような人─もう蜜柑そのものだった。


「今から、一言も喋らんとうちについてきてな」



北の森にはいっていく少女に棗は大人しくついていった。




少女は急に止まって、その場で一回転した。

 

 


気がつくと、目の前に棗と蜜柑、翼、蛍と流架に殿、翼。

そしてペルソナと八雲、ルイと誰かわからないが高等部の生徒らしき人5、6人。

 


横では高みの見物をしている初等部校長がいた。


そう、棗たちとペルソナたちが戦っていたのであった。

 


棗側は息を切らし、蜜柑からは大量の血が溢れ出していた。



『棗っ、まだうち大丈夫っ…』

『嘘つけ!ちっとも大丈夫じゃねえじゃねえかっ!』

『もう遊びは終わりだ。これで終焉になる。学園を守れなくて残念だったな、棗』

『ペルソナっ、お願いっ!もう誰もころさんといてー!学園をこれ以上傷つけるならウチを殺してっ』

『蜜柑!?』

『やめろっ!蜜柑っ!』

『蜜 柑!やめなさいっ!』

『みかんっ、止めろっ!』

『止めてよっ、佐倉っ!』

『もう死んでめええよ、ウチ。これで学園を守れるなら、ええんよ。

優しい友達に囲まれて、素敵な先輩たちと過ごして、

棗に愛されて、たくさんの事件をみんなと乗り越えて…。


幸せやったよ、ウチ。みんなにはもっと幸せに生きてほしい。

だから、ペルソナ。


ウチを殺していいから、学園をこれ以上苦しめんといて…』


『それならいいだろう、叶えてやる』

『案外、ペルソナもいいやつやなぁ…』

『じゃあな、』




その言葉と同時に蜜柑は撃たれた。


「蜜柑ーっ!」

 


***


気がついたら、目の前に居た傷ついた蜜柑や棗、ペルソナや初等部校長達は居なくなっていた。

 


「うちの言いつけを守れんかったんやね」


少女は続けて、


「でも良かった、あの場で叫ばなかったらきっともっと苦しい過去をまた見てしまうことになってたしな」


と言った。

 

「じゃあ、さようなら」

 

少女がそう言って立ち去ろうとした瞬間、風か吹いた。

優しく、どこか切なく。


 

 

去ろうとする少女を見つめ、棗は口を開いた。

 


「みかん、だろ?」

 


「あ、棗にはお見通しかぁ。ごめんな、会いに来てしまって」

「バレバレだっつーの。関西弁も髪の毛もその瞳もずっと見てきたんだからわかるに決まってる」

「ずっと空から見てたんよ、棗が死のうとしてるとこ。

棗にはまだまだ、新しい未来が待ってるから。

もっと生きて欲しいんよ。

早まったらあかん、絶対に。

苦しい過去があっても、新しく幸せな未来を作って欲しかった。

なのに、棗は思い通りに動いてくれない。

やから、来てしまったんよ。

さっきのは、うちが望んだことや幸せやったことを思い出してもらうためやったんや」

「ごめん、みかん…」

「ええんよ、棗が思い出してくれたなら。じゃあ、うち戻るな!」

「みかん」

「何?棗」

「一回だけでいいから、笑ってくれないか─?」

「ええよ、棗、大好き─」



そう言って蜜柑は蒼い澄んだ空の彼方へ消えていった。




空へ溶け込んだ、君の笑顔。

一生忘れないと、誓える。

心の底から愛しい、君の存在。

それはきっと、ずっと側に居る。

見ていてくれる。

だから、未来へ進む。

だって、君が望んだことだから。

 


angel smile 〜天使の微笑み〜

 


 

*前サイトでの展示作品。